富山地方裁判所 昭和32年(ワ)174号 判決 1966年5月31日
原告 長田喜三右衛門 外三名
被告 土屋栄次 外一名
主文
一、原告等の境界確定を求める訴及び地上権範囲の確認を求める訴は、いずれもこれを却下する。
二、被告両名は、連帯して、原告長田喜三右衛門に対し、金二九、二四四円、原告岡本スゞ井に対し、金一、六二五円、原告岡本亜紀雄に対し、金八一二円、原告岡本節子に対し、金八一二円、並びに、右各金員に対する、昭和三二年一〇月一日より完済に至るまで、いずれも年五分の割合による金員を附加して、それぞれ支払え。
三、被告北村奉は、原告長田喜三右衛門に対し、金一八〇、六四八円、原告岡本スゞ井に対し、金一〇、〇三六円、原告岡本亜紀雄に対し、金五、〇一八円、原告岡本節子に対し、金五、〇一八円、並びに、右各金員に対する、昭和三四年五月一日より完済に至るまで、いずれも年五分の割合による金員を附加して、それぞれ支払え。
四、原告等のその余の請求は、いずれもこれを棄却する。
五、訴訟費用は、これを二分して、その一は原告等四名の、その一は被告両名の、各負担とする。
六、この判決は、原告等の勝訴の部分に限り、被告等に対して、それぞれ執行することができる。
事実
一、当事者双方の申立
原告四名訴訟代理人は、「一、(当初の申立)原告等が地上権を有する別紙目録<省略>記載(一)の一八番山林と被告土屋栄次所有の同目録記載(二)の五番及び四六番山林との境界は、右一八番山林と同目録記載(三)の二二番山林との境界に源を発し、西北に流れる谷川の線であることを確定する(被告土屋栄次に対する関係において)。(訂正の申立)原告等が別紙目録記載(一)の一八番山林につき有する同目録記載(五)の地上権は、別紙図面<省略>(一)に表示の(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)(チ)(ロ)の各点を順次結んだ線内、別紙目録記載(一)の二五番山林につき有する同目録記載(五)の地上権は、別紙図面(一)に表示の(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ハ)の各点を順次結んだ線内の、各範囲に存することを確認する(被告両名に対する関係において、但し、右申立は、昭和三六年一二月一四日これを取下げた)。二、被告両名は、連帯して、(一)原告長田喜三右衛門に対し、金一、五五〇、八四二円、(二)原告岡本スゞ井に対し、金八六、一五七円、(三)原告岡本亜紀雄に対し、金四三、〇七八円、(四)原告岡本節子に対し、金四三、〇七八円、並びに、右各金員に対する、昭和三二年一〇月一日より完済に至るまで、いずれも年五分の割合による金員を附加して、それぞれ支払え。三、被告北村奉は、(一)原告長田喜三右衛門に対し、金五五五、七五〇円、(二)右告岡本スゞ井に対し、金三〇、八七五円、(三)原告岡本亜紀雄に対し、金一五、四三七円、(四)原告岡本節子に対し、金一五、四三七円、並びに、右各金員に対する、昭和三四年五月一日より完済に至るまで、いずれも年五分の割合による金員を附加して、それぞれ支払え。四、訴訟費用は、被告等の負担とする」との判決、並びに、右第二項乃至第四項につき、担保を条件とする仮執行の宣言を求た。
被告両名訴訟代理人は、「原告等の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告等の負担とする」との判決を求めた。
二、当事者双方の主張
原告等訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
(一) 別紙目録記載(一)の一八番山林(以下、本件一八番山林という)及び二五番山林(以下、本件二五番山林という)は、ともに訴外松本茂、同杉木亀美、同牧伊松次郎、同清田清信及び同飯幸次郎の共有に属するものであるところ、原告等は、右一八番山林及び二五番山林につき設定せられた別紙目録記載(五)の地上権(以下、本件地上権という)を、原告長田喜三右衛門一〇分の九、原告岡本スゞ井二〇分の一、原告岡本亜紀雄及び同岡本節子各四〇分の一の持分により、共有(準共有)する。
(二) しかして、本件地上権は、もと、訴外浅田幸太郎ほか八名並びに訴外岡本孫兵衛、つごう一〇名の共有(持分各一〇分の一)に属し、同人等は、右地上権に基いて、本件一八番山林及び二五番山林に杉の植林をなし、その立木を共有(持分各一〇の一)していたものであるところ、原告長田は、右岡本孫兵衛を除く九名の右地上権及び地上立木の共有持分(一〇分の九)を、昭和二〇年七月一〇日以降逐次同人等より買受け、また、原告スゞ井は、右岡本孫兵衛の二女、原告亜紀雄及び同節子は、その長男一郎のそれぞれ長男と二女であつて、右原告等三名は、昭和二八年七月七日相続により、右岡本孫兵衛の地上権及び地上立木の共有持分(一〇分の一)を、相続分に応じて取得したものである(孫兵衛の妻ハツ及び三男三郎の両名は、相続を放棄した)。
(三) ところで、本件一八番山林は(二五番山林は、一八番山林の南側に接続する)、別紙図面(一)に表示のごとく、その東北側において、西北より順次、被告土屋栄次所有にかかる別紙目録記載(二)の五番山林(以下、本件五番山林という)及び四六番山林(以下、本件四六番山林という)、並びに訴外清田清七所有の別紙目録記載(三)の二二番山林(以下、本件二二番山林という)と、谷を距てて接し、右一八番山林と五番及び四六番山林との境界は、右一八番山林と二二番山林との境界に源を発し、西北に流れる谷川の線であつて、原告等が右一八番山林につき有する本件地上権は、別紙図面(一)に表示の(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)(チ)(ロ)の各点を順次結んだ線内、本件二五番山林につき有する地上権は、右図面に表示の(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ハ)の各点を順次結んだ線内の各範囲に存するのである。
(四) しかして、本件一八番及び二五番山林は、前記浅田幸太郎等において、本件地上権設定後、杉を主体とする針葉樹の植林に着手し、今日に及んだものであつて、現在においては(後記被告等の立木不法伐採当時)、既に二六年生乃至三〇年生の針葉樹林となつているものであり、他方、本件五番及び四六番山林、並びに本件二二番山林は、その地上生立木を見れば、天然の雑木林をなしているに過ぎないから、原告等が地上権を有する右一八番及び二五番山林と、被告土屋所有の右五番及び四六番山林とは、一見して、截然と識別しうるのであり、右両者を取違えるようなことは、全くありえないのである。
(五) しかるに、被告土屋は、昭和三二年八月被告北村をして、本件一八番及び二五番山林に立入り、原告等の共有に属する同地上に生立の杉立木を、同年八月中旬頃一〇〇本余、同年九月一〇日頃四〇〇本余、合計五八二本(以下、本件伐木という)不法に伐採せしめ、もつて、原告等の立木所有権を侵害するに至つた。
(六) これより先、原告長田は、被告土屋が本件一八番及び二五番山林に立入り、同地上生立木を伐採するとの風聞を耳にしたので、同年七月一九日書留内容証明郵便をもつて、同被告に対し、原告等が地上権を有する右山林に立入り、その立木を伐採することのないよう、警告するとともに、同被告所有山林の立木を伐採するときは、原告長田に連絡のうえ、両者の境界を確認するよう、予め申入れておいたのであるが、被告土屋は、右警告を無視して、前記立木を伐採せしめ、また、被告北村は、原告長田より被告土屋に右警告申入のあつたことを知りながら、同被告より求められるままに、これを伐採したものであるから、右立木の伐採は、被告両名共謀のうえ故意に、少くとも、両名の過失に基く共同不法行為にほかならない。
(七) しかして、原告長田は、被告等の右立木不法伐採の事実を知つたので、同年一〇月二一日富山地方裁判所に、被告等に対する本件一八番及び二五番山林への立入禁止の仮処分命令を申請し(同裁判所同年(ヨ)第九五号事件)、同月二三日その仮処分決定を得て、これが執行をなしたため、本件伐木は、当時伐採せられたまま、現場に置いてあつたのであるが、被告北村は、その後昭和三四年四月頃、右仮処分を無視して、右一八番及び二五番山林に立入り、本件伐木を搬出して、これを他に処分し、もつて、原告等の右伐木の所有権をも喪失せしめるに至つた。
(八) ところで、原告等は、右被告等の不法行為によつて、次のような損害を蒙つたから、被告等は、原告等に対し、それぞれこれが損害賠償の責に任ずべきである。すなわち、
(1) 伐木の喪失による損害 金六一七、五〇〇円
本件伐木は、二六、七年生の杉五八二本、材積三八〇石であつて、別表(一)<省略>第一表に記載のとおり、上、中、小丸太に区分けせられ、伐採当時、これを富山市または中新川郡立山町五百石の木材市場に出荷すれば、同表に記載のごとく、合計八五五、〇〇〇円の価額を有し、伐採現場においては、右市場へ出荷するまでの必要経費二三七、五〇〇円(石当六二五円、立木の場合は、石当六七五円を要するが、既に伐採せられているので、これより伐採費五〇円を減額する)を控除した六一七、五〇〇円の価額を有するものであるから、原告等は、被告北村の右伐木搬出処分により、その右伐採現場における価額相当の損害を蒙つたものというべく、同被告は、原告等に対し、これが賠償をなすべき義務がある。
(2) 立木の伐採自体による損害 金一、七二三、一五八円
本件伐木は、樹齢二六、七年で伐採せられたものであるところ、杉の伐採適期は、最少限度四〇年とせられているから、右伐木を、その伐採適期を待つて、一三年後に伐採したとすれば、その材積は、一、〇五八石となつて、別表(一)第二表に記載のとおり、上、中、小丸太に区分けせられ、その価額は、木材価額及び必要経費(いずれも単価)が前記伐採当時(昭和三二年八、九月)と同一であるとすれば、富山市または立山町五百石の木材市場において、同表記載のごとく、合計二、七六二、三〇〇円となり、前記伐採現場においては(立木価額)、右市場へ出荷するまでの必要経費七一四、一五〇円(石当六七五円)を控除した二、〇四八、一五〇円となるのであるが、右一三年の間には、木材の市場価額及び必要経費ともに、したがつて、立木価額も、相当値上りをする見込であつて、過去の実績に照して、毎年前年より五分の値上り、一三年間には一・八八五六四九倍強(一・〇五の一三乗)の値上りを見ることが明らかであるから、本件伐木は、一三年後には三、八六二、〇九一円の立木価額を有すべきものであつて、これより、ホフマン式計算法によつて、年五分の割合による中間利息を控除し、その前記伐採当時における立木価額を算出すると、二、三四〇、六五八円となり、原告等は、被告等の右伐木の伐採自体により、右伐採当時における立木価額と前記伐木価額六一七、五〇〇円との差額、一、七二三、一五八円の得べかりし利益を喪失し、右金額相当の損害を蒙つたものというべく、被告等は、連帯して原告等に対し、これが賠償をなすべき義務がある。
(九) よつて、原告等は、請求の趣旨のとおり、被告等に対し、本件一八番山林と本件五番及び四六番山林との境界確定(当初の申立)、本件一八番及び二五番山林につき有する本件地上権の範囲確認(訂正の申立、但し、右申立は、昭和三六年一二月一四日これを取下げた)、並びに損害賠償として、原告等の各共有持分に応じて、被告等に対し、請求の趣旨第二項記載各金員の連帯支払、被告北村に対し、同第三項記載各金員の支払を、それぞれ求めるため、本訴請求に及んだ。
被告等訴訟代理人は、答弁として、次のように述べた。
(一) 本訴請求原因事実中、原告等が本件一八番山林及び二五番山林につき設定せられた地上権を共有すること、右地上権はもと訴外浅田幸太郎、同岡本孫兵衛等一〇名の共有に属し、同人等が右山林に杉の植林をなし、その立木を共有していたところ、その後、原告長田喜三右衛門が右共有者の一部より、右地上権及び地上立木の共有持分の譲渡を受けたこと、本件五番山林及び四六番山林が登記簿上被告土屋栄次の所有名義とされていること、本件一八番山林がその南側において、本件二五番山林と隣接し、東北側において、西北より順次、本件四六番山林及び訴外清田清七所有の本件二二番山林と隣接していること、被告北村奉が原告主張の頃本件一八番山林と四六番山林との隣接する地域一帯において、地上生立の杉立木を伐採したこと、原告長田が本件係争の山林につき、仮処分の執行をなしたこと、以上の事実は、これを認めるが、その余の主張事実は、すべて争う。
(二) しかして、本件五番山林及び四六番山林は、登記簿上被告土屋の所有名義となつているが、同被告の所有ではなく、被告北村の所有に属するものである。すなわち、
右山林は、別紙目録記載(二)の六番の二及び同番の三山林、ほか数筆の山林とともに、もと訴外福井友太郎の所有であつたところ、被告北村が同人より買受けて、これを取得し、さらに、被告土屋が昭和三一年一二月一一日被告北村より、これを右六番の二及び同番の三山林、ほか二筆とともに買受け、同月一三日直接右福井友太郎より、これが所有権移転登記を経由したが、被告土屋は、買受山林の立木は僅少であることを聞知し、昭和三二年二月三日被告北村と合意のうえ、右売買契約を解除して、原状に回復することを約したので、本件五番山林及び四六番山林は、被告北村の所有に復帰し、現在同被告の所有に属するものであり、ただ、被告北村において、被告土屋より受領した売買代金のうち、金一、〇〇〇、〇〇〇円の返還を未だ了していないため、これが登記を経由していないものに過ぎない。
(三) ところで、被告北村は、本件一八番山林と四六番山林との隣接する地域一帯において、地上生立の杉立木を伐採したが、原告等が地上権を有する右一八番山林を伐採したのではなく、被告北村所有の右四六番山林及び本件五番山林を伐採したものである(なお、被告土屋は、右立木の伐採に全く関与していない)。すなわち、
右四六番山林は、別紙図面(二)に表示の(ト)(ニ)(ヌ)の谷川の線をもつて、本件一八番山林と境界を接し、(イ)(ロ)(ハ)(ヌ)(ニ)(ト)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次結んだ線内、右五番山林は、四六番山林の西側に接続し、(ロ)(ハ)(リ)(ロ)の各点を順次結んだ線内の各範囲にあつて、原告は、右一八番山林と四六番山林及び五番山林の境界は(イ)(ロ)(リ)の谷川の線であるとするごとくであるが、もしそうであるとすれば、本件一八番山林及び二五番山林は、公簿面積に数倍する広大なものとなり、これに反して、右五番山林及び四六番山林は、北方へ押寄せられて、右図面に表示のように、これと有峰道路との間に存すべき別紙目録記載(四)の三二番、四四番、四五番及び五四番の二の各山林、並びに前記六番の三山林とともに、その面積極めて狭小なものとなるか、右いずれか一方の所在そのものまでが抹殺されることとなるのである。
(四) たとえ、被告北村において伐採した右立木が、前記浅田幸太郎等において植林したものであつたとしても、他人の所有地上に、正当な権原なくして、植樹したものであるから、その樹木の所有権は、植付けと同時に、土地所有者に帰属したものというべく、したがつて、原告等は、本件一八番山林及び二五番山林に地上権を有し、その地上生立木の所有権を有するとしても、本件五番山林及び四六番山林の地上生立木につき、所有権を主張しえないところである。
(五) のみならず、原告長田は、本件一八番山林及び二五番山林について設定せられた地上権につき、一〇分の九の持分を有するというのであるが、うち訴外源庄作、同牧野ヤイ、同藤田シゲ及び同平等半吾の持分については、未だ移転の登記を経由していないから、たとえ、原告長田が同人等より、その持分の譲渡を受けているとしても、これをもつて、第三者たる被告等には対抗しえず、被告等に対する関係においては、右地上権は、原告等と右源庄作等四名の共有に属するものとするほかないところである。
(六) なお、原告等は、本件一八番山林と本件五番山林及び四六番山林との境界確定を求めているが(請求の趣旨第一項の当初の申立)、かりに、右両山林が相隣接しているとしても、原告等は、右一八番山林の所有者ではないのであるから、かかる境界確定の訴を提起しえないところであつて、原告等の右訴は、不適法として、却下せらるべきものである(けだし、境界確定の訴において、その結果につき、最も直接の重大な利害関係を有するものは、土地所有者であり、その意思にかかわりなく、単に用益物権を有するに過ぎない地上権者もこれを訴求しうるとすれば、あるいは、土地所有者と相反する主張をなし、ために、土地所有者に不測の損害を蒙らしめることなきを保しがたいので、境界確定の訴は、土地所有者においてのみ、これを提起しうるものと解すべきであるからである)。
(七) また、原告等は、右境界確定を求める当初の申立を、原告等が本件一八番山林及び二五番山林につき有するとする地上権範囲の確認を求める申立に改めたが(請求の趣旨第一項の訂正の申立)、右原告等の訴の変更は、請求の基礎に変更があるものであるから、許されないところである(けだし、境界確定の訴と地上権範囲確認の訴とは、それぞれ実体上請求の根拠を異にするのみならず、同じ民事訴訟手続ではあるけれども、訴訟上当事者の申立による拘束の有無等、その取扱をも異にしているからである)。
(八) かりに、右訴の変更が許されるとしても、被告等は、右訂正の申立にかかる地上権範囲確認請求の訴につき、原告等の訴取下に同意をしない。
しかして、地上権範囲確認の訴は、もともと、地上権を設定した土地の所有者と地上権者との間において、地上権設定土地の範囲につき、争いのあるときに、土地の所有者もしくは地上権者より、他の一方を相手方として、提起せらるべきものであり、第三者が地上権設定の土地を侵害した場合においては、地上権者は、その土地侵害者に対して、地上権に基き、妨害排除を求めれば足り、地上権範囲の確認を求める必要はないから、原告等の被告等に対する右地上権範囲確認の訴は、不適法として、却下せらるべきものである(けだし、地上権設定の土地の範囲がどのようであるかは、土地所有者と地上権者との間だけの問題であつて、第三者-たとえ、それが地上権設定土地の侵害者であつても-にとつては、全く無関係なことであるからである)。
(九) さらに、共有者が共有物の所有権確認等の訴を提起するには、共有者全員の共同を要すべきところ、本件一八番山林及び二五番山林に設定の地上権は、前述のように、持分譲渡の登記がないため、被告等に対する関係においては、原告等のほか前記源庄作等四名の共有に属するものとするほかなきにかかわらず、原告等は、これらの共有者を除外して、共有地上権範囲の確認を訴求し、また、全共有者の共有である地上生立木に関する損害賠償を請求しているものであるから、原告等の被告等に対する本訴請求は、この点においても、不適法として、却下を免れないものである。
三、当事者双方の証拠<省略>
理由
一、境界確定の請求について、
原告等は、当初、被告土屋栄次に対し、原告等が地上権を有するとする本件一八番山林と被告土屋の所有とする本件五番山林及び四六番山林との境界確定を求めていたが(請求の趣旨第一項の当初の申立)、後に(昭和三四年九月一七日第八回口頭弁論期日において)、これを改めて、被告両名に対し、原告等が本件一八番山林及び二五番山林につき有するとする地上権範囲の確認を求めるに至つたこと(請求の趣旨第一項の訂正の申立)、訴訟の経過に徴して、明らかであり、原告等の右訂正の申立は、単に当初の申立の趣旨を明確にするために、申立を更正したものではなく、原告等は、右当初の申立の旧訴を取下げて、訂正の申立の新訴を提起したいわゆる交替的訴の変更を申立てたものと解しなければならない。
しかして、原告等は、終始、被告等に対し、本件一八番山林及び二五番山林につき地上権を有することを主張しているものであつて、原告等の右訴の変更は、請求の基礎に変更なく、また、著しく訴訟手続を遅延せしめるものとは認められないから、もとよりこれを許すべきものであるが、被告等は、右訴の変更は請求の基礎に変更があり、許されないところであるとなし、原告等の旧訴の取下につき、同意しているものとは認めがたく、なお、原告等において、旧訴につき請求を放棄したこともうかがわれないので、原告等の右当初の申立たる境界確定の訴は、右交替的訴の変更があつても、これにより当然にその訴訟係属消滅したものとなしえず、未だ、当裁判所に係属しているものといわねばならない。
そこで、原告等の右当初の申立たる境界確定の請求につき、考えてみるに、境界確定の訴は、隣接土地所有者の間に、その土地の境界に争いがあり、正当な境界が知れない場合において、条理にしたがつた境界の確定、係争地の配分を裁判所に請求するものであり、かかる境界確定請求権は、所有権の一権能として認められた一種の物権的形成権であつて、ひとり土地所有権者にのみ帰属する権利であると解すべきであるから、地上権者その他の他物権者は、境界確定の訴を提起するにつき、当事者適格を有せず、ただ、土地所有権者の補助参加人として、これに参加しうるに過ぎないものといわねばならない。
してみれば、原告等の被告土屋に対し、原告等が地上権を有するとするに過ぎない本件一八番山林と被告土屋の所有とする本件五番山林及び四六番山林との境界確定を求める訴は、不適法とするほかなく、これを却下すべきものとする。
二、地上権範囲確認の請求について、
原告等は、前記訴の変更にかかる地上権範囲確認の訴につき、その後(昭和三六年一二月一四日第一二回口頭弁論期日において)、これを取下げたこと、訴訟の経過に徴して、また明らかであるが(原告等は、従来の請求中、地上権範囲確認の請求を減縮し、損害賠償の請求のみ維持するというけれども、右両者の請求は、全く別個の請求であるから、前者につき、訴を取下げたものとみるべきである)、被告等は、原告等の右訴の取下につき、同意しないことを明らかに表明しているので、右訴もまた、原告等の取下申出にかかわらず、未だ当裁判所に係属しているものとしなければならない。
そこで、原告等の右訂正の申立たる地上権範囲確認の請求につき、検討を加えることとする。
まず、被告等は、原告等は被告等に対し、本件一八番山林及び二五番山林につき有するとする地上権範囲の確認を求める必要なく、これが確認の利益がないように主張するので、考えてみるに、一般的に、地上権設定土地範囲確認の訴は、地上権を設定した土地の所有者と地上権者との間において、地上権設定の土地の範囲につき、争いがあるときに、土地の所有者もしくは地上権者より、他の一方を相手方として、提起すべきものと限定せられないのみならず、かえつて、かかる地上権設定の当事者間においては、設定土地の範囲について、争いが生ずる余地はなく、むしろ、隣地との境界をめぐつて、その所有権者もしくは地上権者等との間においてこそ、争いを生ずるものというべく、第三者が地上権設定の土地を侵害した場合において、地上権者は、その土地侵害者に対して、地上権に基き、個々の妨害の排除、停止、予防もしくは損害賠償を求めれば、一応その目的を達することもできようが、第三者が土地の境界を争つて、地上権を侵害したものであるときは、地上権者がこれとの間において、抜本的に、争いのある土地につき権利関係を確定すべく、地上権範囲の確認を求めることは、必要であり、かつ、適切であつて、原告等は、被告等が本件一八番山林と五番山林及び四六番山林との境界を争い、原告等が地上権を有する本件一八番山林及び二五番山林を侵害したとなし、被告等に対して、右山林につき有する地上権の範囲の確認を求めるというにあること、その主張より明らかであるから、原告等の右地上権範囲確認の訴は、少くとも、争いある土地の範囲内においては、即時確定の利益が存しないとはいいがたく、したがつて、この点に関する被告等の主張は、失当としなければならない。
しかしながら、土地所有権、もしくは地上権等他物権の確認の訴において、その範囲につき争いのあるときは、請求の趣旨において、その確認を求める土地の範囲を明確にしなければならないところ、原告等は、右地上権範囲確認の訴につき、その請求の趣旨として、単に、「原告等が本件一八番山林につき有する地上権は、別紙図面(一)に表示の(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)(チ)(ロ)の各点を順次結んだ線内、本件二五番山林につき有する地上権は、同図面に表示の(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ハ)の各点を順次結んだ線内の、各範囲に存することを確認する」と申立てるのみであつて、それに引用する図面をみると、一応、大山町(富山県上新川郡)東小俣字後シ谷割の水須村地内との山界と有峰道路とが交差する点を基点とし、これより右図面に表示の各地点間の距離が示されてはいるが、同図面は、いわゆる字限絵図であつて、これに表示の各土地の形状、位置、方位等極めて不正確なものというほかなく、右基点自体これを確認するに困難であり、表示各地点の基点よりする方位、方角など全く示されていないので、原告等が確認を求める、地上権を有するとする土地の範囲が、現地において、いかなる地域に当るものか、明確に特定しえていないものといわねばならない。
してみれば、原告等の右地上権範囲確認を求める訴は、その申立を記載した準備書面(昭和三四年六月二四日附第二準備書面)に瑕疵があるものとして、訴状に準じて、同準備書面(右申立関係についてのみ)を却下すべきものであつたとしなければならないが、被告等(代理人)において当時その副本を受領し、既に、訴訟係属の効力を生じたものであるから、これを不適法として、却下すべきものとする。
三、損害賠償の請求について、
本訴請求原因事実中、原告等が本件一八番山林及び二五番山林につき設定せられた地上権を共有すること、右地上権はもと訴外浅田幸太郎、同岡本孫兵衛等一〇名の共有に属し、同人等が右山林に杉の植林をなし、その立木を共有していたところ、その後、原告長田喜三右衛門が右共有者の一部より、右地上権及び地上立木の共有持分の譲渡を受けたこと、本件五番山林及び四六番山林が登記簿上被告土屋の所有名義とされていること、本件一八番山林がその南側において、本件二五番山林と隣接し、東北側において、西北より順次、本件四六番山林及び訴外清田清七所有の本件二二番山林と隣接していること、被告北村奉が昭和三二年八、九月頃本件一八番山林と四六番山林との隣接する地域一帯において、地上生立の杉立木を伐採したこと、原告長田が本件係争の山林につき、仮処分の執行をなしたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。
しかして、成立に争いのない甲第二号証の一、二、第六号証及び第七号証の各一、二、原告本人長田喜三右衛門の供述より成立を認めうる甲第四号証及び第五号証の各一、二、並びに第八号証の一乃至三(第八号証中、各法務局作成部分の成立については、争いがない)、証人松本茂、同杉木鶴次郎及び右原告本人の各供述、並びに弁論の全趣旨よりすれば、本件一八番山林及び二五番山林は、ともに、もと訴外松本金次郎、同谷本初次郎、同谷口政次郎及び同牧伊松次郎等四名の共有に属したものであり、現在は訴外松本茂、同杉木亀美、同清田清信、同飯幸次郎及び右牧伊松次郎等五名の共有であること、訴外浅田幸太郎、同谷本トミヱ、同前沢善作、同杉山小左衛門、同牧野ヤイ、同内山栄蔵、同中村滋雄、同松井孫之助、同松井巳之助並びに同岡本孫兵衛の一〇名は、大正九年六月二七日本件一八番山林及び二五番山林につき、その当時の共有者右松本金次郎等との間に、地上権設定契約をもつて、ほか一〇数筆の山林とともに、別紙目録記載(五)の地上権(すなわち、本件地上権)の設定を得て、持分各一〇分の一の割合により、これを共有(準共有)するに至り、同年七月三日これが登記を経由して、その頃よりこれに杉の植林をなし、その立木を共有(持分各一〇分の一)していたこと、その後、原告長田は、本件一八番山林及び二五番山林の地上権並びに立木共有持分のうち、右岡本孫兵衛の持分を除く一〇分の九につき、浅田幸太郎の持分は、その家督相続人訴外浅田耕造を経て、これを買受けた訴外高村長次郎より、谷本トミヱのそれは、これを買受けた訴外杉木鶴次郎より、内山栄蔵のそれは、これを買受けた訴外佐伯静より、中村滋雄のそれは、これが贈与を受けた訴外中村滋三より、昭和一九年一一月頃売買によつて、いずれも譲渡を受け、昭和二一年九月二日昭和二〇年七月一〇日附売買を原因として、その登記を経由し、前沢善作の持分は、同じく昭和一九年一一月頃売買によつて、同人より譲渡を受け、昭和二一年九月一〇日同じく昭和二〇年七月一〇日附売買を原因として、その登記を経由し、また、松井巳之助の持分は、これを買受けた訴外平等半吾の相続人訴外平等半四郎、同平等周二、同平等ヨリ及び同竹腰昭世より、昭和三〇年頃売買によつて、譲渡を受け、同年三月二五日附売買を原因として、昭和三七年六月一九日その登記を経由し、さらに、杉山小左衛門の持分は、これを買受けた訴外源庄作より、牧野ヤイのそれは、同人より、ともに昭和三〇年頃売買によつて、松井孫之助の持分は、訴外佐伯静男を経て、順次これを買受けた訴外藤田シゲより、それより先昭和二一年頃売買によつて、それぞれ譲渡を受け、右最後の三名の持分については、未だその登記手続を完了していないが、以上九名の持分併せて一〇分の九を承継取得したこと、岡田孫兵衛は、昭和二八年七月七日死亡し、同人の持分は、その二女原告岡本スゞ井並びに長男亡一郎のそれぞれ長男と二女である原告岡本亜紀雄及び同岡本節子(代襲)の三名において、遺産相続により、その相続分に応じて、これを承継取得したこと(孫兵衛の妻ハツ及び三男三郎の両名は、相続を放棄した)、すなわち、本件一八番山林及び二五番の地上権並びに立木は、以来、原告長田の持分一〇分の九、原告スゞ井の持分二〇分の一、原告亜紀雄及び同節子の持分各四〇分の一による共有となつたこと、以上の事実を肯認することができ、他に右認定を動かすべき証拠は存しない。
また成立に争いのない甲第一号証、乙第二号証及び第六号証、並びに被告本人土屋栄次及び同北村奉の各供述よりすると、本件五番山林及び四六番山林は、もと、別紙目録記載(二)の六番の二及び同番の三山林とともに、訴外林三郎の所有であつてその後、同人の家督相続人訴外林久範より、訴外福井友太郎が昭和一九年六月一二日頃これを買受けて(右同日所有権移転登記)、近隣の他の山林六筆と併せ所有していたところ、被告北村は、昭和三一年七月頃右福井友太郎より、本件五番及び四六番山林を含む一〇筆の山林全部を買受け(代金一、七〇〇、〇〇〇円)、さらに、同年一二月頃被告土屋に対し、そのうち、本件五番及び四六番山林並びに右六番の二及び同番の三山林を含む七筆の山林を売渡し(代金二、七〇〇、〇〇〇円)、同年二月一三日これが所有権移転登記を経由したこと、すなわち、被告等は、原告等が地上権を有する本件一八番及び二五番山林に隣接して、本件五番及び四六番山林を相次いで所有するに至つたことが認められる。
ところで、前掲甲第一号証、乙第六号証、成立に争いのない甲第三号証、乙第三号証、前掲証人松本茂、同杉木鶴次郎、証人清田清七(第一、二回)、同谷本時也及び同大江森吉の各証言、原告本人長田、被告本人土屋及び同北村の各供述(いずれも一部)、検証(第一、二、三、四回)の各結果、鑑定人山本泉の鑑定の結果、並びに本件弁論の全趣旨を併せ考えるに、被告土屋は、昭和三二年三月頃本件五番及び四六番山林の立木を、右山林を同被告に売渡した被告北村に依頼して、伐採することとし、同被告をして、同年五月頃より準備させたうえ、同年九月頃までの間に、原告等が地上権を有する本件一八番及び二五番山林地内に生立し、その共有に属する杉立木約九六立方メートルを自己所有山林に生立する立木であるとして、これを伐採せしめ、もつて、原告等の右立木所有権を侵害したこと、さらに、被告北村は、その後昭和三四年四日頃までの間に、右山林内生立の杉立木約三一〇立方メートルを伐採し(原告等は、この点につき、何等の主張もしていない)、その頃、右両者の伐木のうち約三分の一に当る二七五立方メートルを搬出して、これを他に処分したこと、しかして、本件一八番山林と本件五番及び四六番山林とは、谷川(もしくは谷)を距てて接し、本件一八番及び二五番山林は、前記認定のように杉を主体とする植林がなされて、被告等の右立木伐採の昭和三二年当時、既に二七年生乃至三一年生、平均して二九年生の針葉樹林となつていたものであり、他方、本件五番及び四六番山林、並びにこれに隣接する本件二二番山林は、地上生立木を見れば、天然の雑木林をなしているに過ぎず、右両者は、一見して、截然と識別しえたこと、被告等は、本件五番及び四六番山林を買受けるに際してはもとより、右立木伐採に着手するに当つても、現地につき、隣地の所有者、権利者並びに地許住民等について、境界その他につき調査、確認を経なかつたのみならず、昭和三二年七月頃原告長田より、書留内容証明郵便による警告を受けていたのに、あえて伐採を強行したこと、以上のような事実を肯認することができ、この認定に反する証人林常吉(第一、二、三回)、同瀬川亀次郎(第一、二、三回)、同杉山国造、同瀬川鶴太郎及び同石倉伊吉の各証言、並びに被告本人土屋及び同北村の各供述部分は、前掲各証拠に照して、たやすく措信しがたく、他に、右認定をくつがえすに足る証拠はない(なお、被告等は、被告土屋は昭和三二年二月三日被告北村と合意のうえ、前示認定本件五番及び四六番山林等の売買契約を解除し、以後、右山林に関係なく、立木の伐採にも全く関与していないというけれども、そのような事実は、これを肯認するに足りない)。
してみれば、被告等の右昭和三二年の立木伐採は、少くとも、被告両名の過失に基く共同不法行為であり、また、被告北村の右認定昭和三四年の立木伐採及び伐木の搬出、処分は、少くとも、過失に基く同被告単独の不法行為であるというべく、被告等は、それぞれ原告等に対し、その蒙つた損害を賠償する責に任ずべきものとしなければならない。
なお、原告長田は、前記源庄作、牧野ヤイ及び藤田ツゲの各持分譲受につき、未だ移転登記を完了していないこと、前段認定のとおりであり、被告等は、右原告の登記の欠缺をいうが、右認定のように、被告等は、不法行為者であつて、もとより、右登記の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者には当らないから、同原告は、その登記がなくとも、右持分譲受けをもつて、被告等に対抗しうるところである。
そこで、原告等の蒙つた損害について、次に、考えてみるに、原告本人長田の供述、前掲鑑定人山本泉の鑑定の結果、並びに鑑定人黒田正一の鑑定の結果によれば、原告等は、被告等の不法行為により、次のような損害を蒙つたことを認めることができる(この認定に反する鑑定人山本泉の鑑定結果は、これを採用しない)。すなわち、
(1) 伐木の喪失による損害 金二、〇五五、六〇四円
(イ) 昭和三二年九月頃までの伐採分 二四〇、八六四円
被告等は、立木九六立方メートル、この当時現場における立木価額二四〇、八六四円を伐採し、被告北村は、そのうち、三分の二に当る六四立方メートル(同価額一六〇、五七六円)を搬出、処分し、三分の一に当る三二立方メートル(同価額八〇、二八八円)はそのまま放置して、腐朽せしめ、原告等は、結局、右立木全部の所有権を喪失し、その価額に相当する損害を蒙つたものというべきである。)
(ロ) 昭和三四年四月頃までの伐採分 一、八一四、七四〇円
被告北村は、立木三一〇立方メートル、この当時現場における立木価額一、八一四、七四〇円を伐採し、そのうち、三分の二に当る二〇七立方メートル(同価額一、二〇九、八二七円)を搬出、処分し、三分の一に当る一〇三立方メートル(同価額六〇四、九一三円)はそのまま放置して、腐朽せしめ、原告等は、結局、右立木全部の所有権を喪失し、その価額に相当する損害を蒙つたものというべきである。
なお、原告等は、被告北村は被告等の昭和三二年伐採木を全部搬出、処分し、右伐木の喪失のみによつて、金六一七、五〇〇円の損害を蒙つたというけれども、これを肯認しうべき資料がない。
(2) 立木の伐採自体による損害 金一三七、四一九円
被告等の伐採木は、前示認定のごとく、平均樹齢二九年であつて、伐採適期になく、杉の伐採適期は、四六年生乃至五〇年生の頃にあり、前示認定の全伐木を、その伐採適期を待つて、伐採したとすれば、原告等は、右伐採時に比較し、その時点における価額に算定して、一三七、四一九円、より多く収益を挙げえたものとせられ、したがつて、被告等の伐採により、右金額相当の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙つたものというべきであり、これを前示各伐採時に、その材積に応じて按分すると、次のようになる。
(イ) 昭和三二年九月頃までの伐採分につき、三二、四九三円
(ロ) 昭和三四年四月頃までの伐採分につき、一〇四、九二六円
なお、原告等は、被告等の昭和三二年伐採木のみの伐採によつて、右得べかりし利益の喪失により、金一、七二三、一五八円の損害を蒙つたというけれども、これを肯認しうべき資料がない。
しかしながら、原告等は、被告等が昭和三二年九月頃までに立木を伐採した不法行為及びこれが損害の賠償のみを主張して、その後における被告北村の昭和三四年四月頃までの立木伐採の不法行為及びこれが損害の賠償はいわず、また、被告土屋に対しては、立木の伐採自体による損害(得べかりし利益の喪失)のみを主張し、伐木の喪失による損害はいわないこと、その主張自体より、明らかであるから、これが主張のない以上、前記認定(1) の(ロ)及び(2) の(ロ)の各損害は、ともに被告両者の関係において、右(1) の(イ)の損害は、被告土屋の関係において、もとより認容しうるところでないのみならず、後者につき、現場に放置せられた伐木三二立方メートルを腐朽せしめたことによる損害八〇、二八八円は、原告等において、その腐朽する以前に、これを適当換価しえたところであつて、これを換価すれば、それだけ、原告等の損失増大を避止しえたものというべく、原告等がその措置に出でなかつたことは、被告北村の損害賠償額を定めるに当つて斟酌すべく、これを斟酌するときは、同被告の賠償額は、右損害の半額を減じて、四〇、一四四円をもつて相当と考える。
そうとすれば、原告等の請求に対し、被告等において賠償すべき損害額は、窮極するところ、被告両名の関係において、金三二、四九三円、被告北村の関係において、金二〇〇、七二〇円(合計金二三三、二一三円)というべく、したがつて、右損害賠償額を原告等の各共有持分に応じ分割して、被告両名は、連帯して、原告長田に対し、金二九、二四四円、原告スゞ井に対し、金一、六二五円、原告亜紀雄及び同節子に対し、各金八一二円、並びに、右各金員に対する、遅滞後たる昭和三二年一〇月一日より完済に至るまで、いずれも民法所定年五分の割合による遅延損害金を附加して、それぞれ支払うべき義務があり、被告北村は、原告長田に対し、金一八〇、六四八円、原告スゞ井に対し、金一〇、〇三六円、原告亜紀雄及び同節子に対し、各金五、〇一八円、並びに、右各金員に対する、遅滞後たる昭和三四年五月一日より完済に至るまで、いずれも民法所定年五分の割合による遅延損害金を附加して、それぞれ支払うべき義務があるものとしなければならない。
よつて、原告等の被告等に対する本訴損害賠償の請求は、右に認定の範囲において、正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものとする。
四、結論
以上のような次第であつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき、同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田誠吾)